(第2号)あなたにとって、大切なものって何ですか?
●やばい・・・・
(あるギャンブル依存症な男:Mクンの日常 その二)
来週の月曜は公休日なので、土日とあわせて3連休となる。
金曜の夜に会社の同僚とつきあって飲みに行っていたおれは、二日酔いで頭ががんが
んしながら、なんとか布団から這い出す。
時刻はすでに13時をまわっている。
『うー、キモチワルイ。けど、はらへったな。こんなときでも食欲がなくならないの
は、俺のいいところだよな。』
さて、飯食いにいくか。
どこに飯を食いに行くかというと、雀荘である。
当時、行きつけの雀荘で定期的に行われている麻雀大会で優勝していたおれは、優勝
者の特権である『来店1回につき雀荘の食事メニューを1回無料で食べられる』という
オプションをいいわけにして、雀荘通いが加速していた。
店内に入ると、従業員がぞろぞろと集まってきて、従業員全員で来店者への定例のあ
いさつを行う。
『M名人、オハヨウゴザイマス!いらっしゃいませ!本日も一日、よろしくお願いいた
します!』
雀荘には、いつの時間に行ってもオハヨウゴザイマス、とあいさつされる。常連のお
れにとっては、いつもの光景だ。多分はじめての人には、大勢の人間が一様に行うこの
光景は、異様な光景に映ると思うが。
いつもの光景といえばいつもの光景だが、それまでおれがうけていたあいさつと、最
近の挨拶は少し異なっていた。
大会に優勝してから、おれはあいさつのときに、『名人』という称号つきで呼ばれる
ようになっていた。
気分は悪くない。
店長が、僕に近づいてくる。
『M名人、お飲み物は、アイスコーヒーガムシロップだけでよろしいですよね。』
おれはいつもこれしか飲まないので、当然覚えられている。お店のメニューの中から
牛丼を注文し、10000円分のチップを換金し、おれの入れる卓が空くのを待つ。
飯を食いながら、そわそわしている。早く打ちたい。ソッコウで牛丼を胃の中に流し
こむ。
土曜日の14:30、一回目の半チャンを打ちはじめる。
面子は、30代の常連二人と、おそらく60代くらいのおっちゃん。
全員、典型的な『場荒らし』だ。『場荒らし』は、相手の捨て牌から、相手の手を類
推するようなことはしない。
自分の切りたい牌を切る。
たとえそれがドラであっても。
たとえそれが相手のキー牌であっても。
そうすることで、他のプレイヤーに迷惑を掛けることになっても。
むしろ、そういう自分勝手なプレイを、テクニックだと思っている節がある。
不思議なのだが、『場荒らし』が3人集まると、『場荒らし』が有利な場になるのが
麻雀というゲームだ。相手の手を読んで進めるタイプは、むしろ不利になる。
麻雀というゲームが、ギャンブルに変わってしまう。
なぜ、そうなるのかはここでは説明しないが。
でも、こういう奴らには絶対に負けたくない。
(あ、やばいな、この面子・・・)そう思いながら、なんとか『場荒らし』が作る、
『どこに地雷があるかわからない』場を制する方法はないか考える。
1回目の半チャン。結果はおれのラス。(麻雀知らない人のために・・4着のこと)
-7000円。
気をとりなおし、次の半チャン。2着。
でも一人がダントツになったため、-1000円。
がんばろう、次の半チャン。でも2着。辛うじて浮いて、+800円。
一回のゲームで、600円かかるので、すでに-9000円。
その後、何回やってもトップはとれずに、ゲームは進む。ラスこそ引かないものの、
少しマイナス、少しプラスの2着、3着をくりかえし、確実に財布の中身は減っていく。
そろそろ7~8時間たっているので、面子は一人変わっている。でも、新しく入って
来た人も『場荒らし』なので、展開は変わらない。
・・・・うー、頼むからキミたち、もっとまともに打ってくれよ。そんなに暴牌ばっ
かりして、キミたちもトータルではマイナスじゃない。そんなんじゃ、お店が儲かるだ
けだよ?(と思っているが、口には出さない)
半チャン10回目にして、やっとのトップをとる。+5000円。
しかし、それまでにすでに20000円のマイナスになっていたので、トータルでは
-15000円。追加で10000円を換金し、財布の中には、1000円しか入って
いない。
「よし、少ない浮きだけど、やっとトップだ。3連勝して、トータル浮きまでもってい
くぞ」
だが連勝は2でストップ。12戦目は2着で+1000円だが、トータルでは
-8000円。
そろそろラス半いれるか?
(麻雀知らない人のために・・・ラス半とは、『これで終わります』ってことね)
いや、もう少しで浮くんだ、あと2回。あと2回だけだ。
その後も同じ展開。少しマイナス、少しプラスの2着、3着のくりかえし。
もう、15時間が過ぎている。日曜の5:30をまわっている。
財布の中にあった1000円すら換金した。チップケースには、5000円分のチッ
プしかない。
それでも続行。プラスに持って行くまでやめられない!
気合いが功を奏したのか、このゲームでは+12000円の大爆発。今、-4000
円だから、あと1回のトップでプラスまで持っていける!
・・・・・・・・・・・・・(キリがないので中略)
さらに28時間後、おれはやっと雀荘から出ることになる。
一時はプラスまで持っていったものの、3時間くらい前から集中力が切れ、4連続ラ
ス。
結局持ち金を全部使い果たし、店に5000円のアウト(借り)を作った。
食事は、そういえば来店したときしかとってないな・・・・
時は、月曜日の朝10時。
ケータイを見ると、実家と、関西にいる彼女から何回も着信が入っている。
やばい・・・・。
あ、そういえば会社への報告書と経費精算の書類、土曜日中にメールで提出だった。
やばい・・・・。
おれは、ホントに、何をやってるんだ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●あなたにとって、大切なものって何ですか?
・・・・・・いやあ、ほんと馬鹿ですね、Mクン。
ギャンブルにはまりすぎるのは、ほんとによくない。
この集中力を、ビジネスに生かすことができれば、Mクン、けっこうすごいかも
知れないのに。
ギャンブルに限らず、好きなことにハマリ過ぎて、大切なはずのものをおろそかに
してしまった経験ってないですか?
私は、こういう経験を本当にたくさんしてきてしまいました。
Mクン(私)にとって、麻雀は本当に大好きなゲームで、いい面子とめぐり会えた
ときは、これほど面白いゲームはない、と今でも思っています。
Mクンの場合、はじめはもしかしたら麻雀を大切にしていない(と感じる)他のプ
レイヤーに対して、負けたくないという気持ちが強かったのかもしれない。
でも、途中から変わってますよね。
「あといくらでプラスに持っていける」とか・・
矛盾を感じませんか?
Mクンに、他のプレイヤーを責める権利はあるのでしょうか?
Mクンも、大好きなゲームを大切にしている、と言えるのでしょうか?
そして、のめりこむことで、もっと大切なものを大切にできなくなってしまう・・
私は、お金をかける麻雀をやめました。
ギャンブルをすることで、大切にできなかった家族を大切に扱うために。
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発行者:Mクン
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